尾道には、小路(しょうじ)と呼ばれる、細い路地が南北にかけ多々存在しています。なかでも、別世界と称されるのが築地小路。夢と現実の境界線のような細路地へ、いざ。
本通り商店街の東を歩いていると、意識して立ち止まなければ見過ごしてしまう細い小路があります。
この先には何があるのか。幅は約1mほど。
あまりの狭さ故、通るには少しひるむような雰囲気が漂います。しかしこの築地小路、奥にある熊野神社へ続く路地です。すぐ近くの水尾通りを含む近辺では、毎年夏になると「水祭り」が開かれることで知られています。
暗い小路を抜けると、行き止まり。井戸と、鳥居と、小さな社。
商店街から入ったばかりなのに、不思議と静かです。サーッと吹き抜ける風が、どこか違う世界へと連れていかれるような感覚を覚えます。
「ニャー」どこからともなく猫の声。まるで神社を見守るように猫が静かに鎮座していました。
敷地内には3つの井戸があり、そこから引かれた水をいただくこともできます。
長く近隣住民の方に大切にされてきた井戸。西日本を中心にして2018年に起こった西日本豪雨では、各所で断水が発生しましたが、古から地域に根付いてきた井戸が、大活躍したそうです。水は、生きるもの全てに不可欠なもの。命を繋ぐ尊いものだと実感します。
実は熊野神社、地理的観点から見ると、西国寺山、千光寺山、浄土寺山、そして対岸向島の岩屋山、4つの山をクロスした中心に位置しています。
尾道三山は、古代の巨石信仰の聖地とも言われる岩屋山に向かって建てられているとされ、どの山も古くから人々に信仰されていたという確かな事実があります。そこに熊野神社が加わっているとは…。
偶然なのか必然なのか、別世界の趣が残る築地小路と関連があるのではという説もあり。
もしかすると本当の尾道旅は、この狭い小路をくぐってから始まるのかもしれません。
TEXT&PHOTO/大須賀あい SPECIAL THANKS/尾道商會 奥忠直