尾道本土と対岸の向島の間では、渡し船が頻繁に運行されています。この航路は、地元の人々にとって通勤通学に欠かせないもの。もちろん、サイクリストや観光客にも利用されています。朝昼晩と休みなく運行している渡船ですが、夕暮れ時の航路は格別。尾道水道に沈みゆく、オレンジ色の夕日と海風を感じる、たった3分間の絶景クルーズへご案内します。
本土と向島にかかる渡船は、現在3本。中でも尾道市土堂の海岸通りに立つ「福本渡船」は、現在運航している最も歴史の長いフェリーです。赤褐色の桟橋と看板からは、古い歴史が感じられます。
片道運賃は大人60円、小児30円。チケットを購入する必要なく、向島の船着き場で支払います。電子マネーやクレジットカードは使えませんが、小銭をチャリンと渡す瞬間は、現代ではなかなか経験できないクラシックさ。
乗船時間は、約3分間。海を滑るように走る渡船からは、雲間に浮かぶ太陽がくっきりと。
空が夕焼け色に染まり、あたり全体を照らします。
豪華でも、派手でも、陽気な音楽もない。
ただそこにあるのは、渡船にまつわる生活音と、それぞれの日々を暮らす人々の往来。
何か目的を持たずとも、渡りたい。街から街への船の旅。
単なる移動手段ではなく、船に乗ることそのものが旅の思い出になる。そんな稀有な楽しみこそが、瀬戸内的スローライフ。
3分間で何を思い、何を感じ、どんな夕日が顔を出してくれるのか。
ただそれだけのための渡船黄昏クルーズ。
夕焼け尾道は、どんな人も優しく包み、明日を照らしてくれます。
TEXT&PHOTO/大須賀あい