尾道を歩いていると、至る所で昭和レトロを感じる場所に出合います。昭和な町並みが残る街といえば、寂れて物悲しい雰囲気をイメージすることでしょう。しかし尾道は、昭和な遺産を残しつつも、人々の活気があちこちに。特に、商店街付近を歩くと目にする看板からは、尾道が歩んできた歴史をも感じられるのです。
密かに知られている昭和フォトジェニックスポット、尾道の小さな路地を紹介します。
商店街から海を南北に繋ぐ「荒神堂通り」。その一本西側を通る細い路地。
奥に見えるカタカナ表記の看板に、スーッと引き込まれるような感覚に。
民家と壁に沿う緑は、もちろん人々の生活から生まれたもの。あちこちに植木鉢が肩を並べ、情緒溢れる下町風な光景が広がっています。
近くに寄ると「テーラーアダム」の文字。
ブルーとホワイトをベースに、アダムの濁点や文字の始まりと終わりが星を模した形になっているのが見てとれます。
この看板こそが、ちょっとしたSNS映えスポットとして知られているレアな場所。
現代にない熱量を感じられるデザイン、そして今なお存在している昭和の看板。
もちろんテーラーアダムは現在営業していませんが、何十年もの間、ひっそりと人々の暮らしを見つめ続けているのです。
テーラーとは仕立て屋さん。今でこそ服は既成品を買うものですが、過去オーダーメイドが当たり前の時代がありました。
世界で一着だけ、自分だけの服が日常だったなんて、少しうらやましくも思います。
商売、そして人々の交通網として栄えてきた尾道には、このような仕立て屋さんがたくさん存在していたとか。
テーラーアダム看板の奥に見えるのは、かの有名な千光寺。
民家の二階付近には、洗濯物が干され、観光の街とは少し違った風情を垣間見ることも。
独特なデザインや色使い、そしてチャーミングな名前、ここだけでなく尾道にはたくさんの昭和な看板が点在しています。
昭和を体験できるよう作られたテーマパークではない、リアルな昭和。
着物を着てレトロな喫茶店に入った後、そのまま街をふらりと歩く若い女性たちをよく見かけるのは、きっと尾道だからこそできる街歩きの楽しみ方です。
TEXT&PHOTO/大須賀あい